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雨の日の恋人・前編

 

 

昨朝から降り始めた雨は、今もしとしとと地面を濡らしている。
雨は嫌いじゃない。雫が屋根を叩きつける音が心地いいから。

ただ理由はそれだけではない。
実のところは、雨の日になると決まって訪れる客人が待ち遠しいのだ。


----ピンポーン、

 

ドアホンの音が鳴ると、俺はガスコンロの火を止め、たったいまやってきた客人を招き入れるため玄関へと向かう。
ドアを開けると、スーツ姿の男が肩を濡らしてにへら、と笑って立っていた。


「よぉ。」

「久しぶり。」

 

彼……須崎は、高校時代の同級生だった。
一緒につるんでいたうちの1人で、須崎とはその中でも一番気が合った。
奴はひょうひょうとしており掴みどころがなく、そんなところが適当人間な俺とマッチしていたんだと思う。
顔立ちは二枚目で学生時代から髪を明るく染めていたせいか一見遊び人のような風貌だったが、現在は暗めの茶髪位の色に落ち着いている。

現在、須崎は大手の広告代理店で働いているらしい。オフィスがうちの近くで、雨の日になるとこうして雨宿りをしていくのがお決まりのパターンになっていた。
何故、雨の日だけなのかというと、須崎は既婚者だから。家には嫁とまだ1歳になったばかりの娘がいる。

普段は家族が待つ家に帰らなければいけないが、雨の降る日だけはこうして俺の家を訪れるのだ。
何のために?……SEXをするために。
須崎と俺は、いつからか所謂セフレという間柄になっていた。

 

「外さみぃわ。今日、メシなに?」

「俺もさっき家に帰って来たとこで。適当に鍋にするかなって。チゲ鍋。」

「いーね。最高。」


途中のコンビニで買ってきたのだろう缶ビールとつまみの入ったビニール袋を机の上に置き、ソファに腰を下ろす。
俺は雨で濡れたコートを受け取り、ハンガーにかけるとキッチンに戻り再び鍋に火をつける。
野菜が煮えたら最後に豆腐を入れてまた待つだけ。鍋は簡単だが、1人暮しだとまず作らない。一人分作るのも手間だし、余らせて暫く同じ物を食べなくては行けないのが苦痛だからだ。

リビングからは須崎がテレビを見ているようで、バラエティ番組か何かの音声が流れている。
すっかり自分の家のようにくつろいでいるのも当然、須崎は大学時代には毎日のようにうちに居座っていたからだった。
その頃は猿みたいに毎日ヤリまくっていたっけ。あの頃は若かった。

 

「お待たせ。ほら、メシにしよ。」

「はいはーい、んーうまそーだ。」


先程までソファに寝転がっていたが、鍋が食卓へ並ぶのを見て待ってましたとばかりに一目散に駆け寄ってくる。
見た目は細く見えるが、須崎はこう見えてよく食べる。だから須崎がうちに来る時は4人前位の量で丁度いい。

 

「「いただきます。」」


二人で手を合わせて鍋をつつく。
寒い日の鍋も、仕事終わりのビールも最高に美味かった。
でも、それだけじゃなくて、須崎と一緒に食べるから美味しいんだってことは本人には言わないでおく。

この関係に依存しているのは俺だけで、須崎はきっと男同士で交わる快感を忘れられないだけだろう。
学生時代の過ちが無ければ、いまこうして二人で食卓を囲む未来なんて無かった。
俺達はただの友人。そして、須崎には大切な家族がいるのだから。

だから、この気持ちは須崎に伝えちゃいけない。あいつが幸せなら、苦しくても俺は墓場にまで持っていく。
ただ……こうして時々、雨の降りしきる夜にだけ傍にいられれば。
それだけで、俺はこの先なにがあってもやっていける。