雨の日の恋人・後編

 

ずっと雨が嫌いだった。
湿気で髪のセットに手間取るし、靴や服が濡れて、雨の日は一日最悪の気分になる。
雨の音を聞いているだけで憂鬱だったのに、いつからかそんなに悪くないんじゃないかと思い始めた俺がいた。

きっかけは高校からの付き合いの友人、瀬尾 晴生の一言だった。


『雨の日って、特別なカンジがしない?』

当時は何言ってんだこいつって思っていたけど、今は少しだけその意味が理解出来たような気がする。
それはいまの俺達にとっても、雨の日は特別な日だからだ。

 


「……瀬尾、挿れるよ。」

「ん、ッッ、ァッ……」


夕食を終え、軽くシャワーを浴びたらいつものように瀬尾をベッドへと誘う。
学生時代に始まった関係だったが、今までその誘いを断られたことは1度もなかった。

それまでは、男を相手に抱きたいとかキスしたいなんて考えたこともなかったはずなのに、何故だか瀬尾を前にするとその欲情を抑えることができない。
あいつのアーモンド型の瞳に、あの熱っぽい眼差しで見つめられると期待されているんじゃないかと錯覚してしまう。
無論ただの思い込みに違いないが、俺からすれば瀬尾のそれはタチが悪い。

もしかしたら、俺以外の奴ともこういう関係を持ったことがあるのかもしれないが、そこまで立ち入るのはいけない気がした。
……いや、単に自分が怖くて聞けないだけなのだ。
瀬尾の"特別"が俺だけであって欲しい。勝手だとは知りながらそう願ってしまう。

妻子持ちという立場で、同性の友人と関係を持っている。
しかも、相手は男だ。罪の意識に苛まれはするが、瀬尾はその非にならないくらい心を痛めているだろう。
恐らくあいつは、俺に友情以上の感情を抱いている。それも随分と前から。
それを知っていながら、俺は瀬尾に手を出してしまった。その気持ちに対して答えることもせず、むしろ瀬尾からの好意をいいことに弄ぶかのように。

自分が最低な人間だという自覚はある。俺は選ばなければいけないのだ。
家族と友人。かけがえのない二つを天秤にかける必要がある。

 

「瀬尾……、ごめんな。」


疲れ果てて眠ってしまった友人の頭をそっと撫でる。
瀬尾を見ていると、本来友人に抱く以上の感情……愛おしい、と思う。
いつも笑っていて欲しいとか、自分の知らないところで辛い思いをしていないかとか。
俺だけを見ていて欲しい……とか。

 

「……許されねぇよなぁ、」


望んじゃいけない。こんな関係を続けていることすらおかしいのに。
でも、他の奴がコイツの隣にいることを想像すると、心臓の辺りが重く感じる。

きっと、俺はまたこうして雨の降る夜が来たら瀬尾の元を訪ねてしまうだろう。
やっぱり、雨は嫌いだ。
こんな思いをする位なら、もう何もかもを放り出してしまいたい。
家族も、仕事も、何もかも。
そしたら俺は……。

 

「じゃあな、また……雨の日に。」